基礎理論

1.線形逆問題の定式化と基礎知識

観測データからモデルのパラメタを推定する方法は,確率理論から統一的に解釈することができる.すなわち,基本となる基礎理論から多くの推定手法をその特殊な場合として誘導することができる.例えば,時系列データに対するフィルタリングの方法であるカルマンフィルターや確率場に対する補間法であるクリギング(kriging)もその特殊な場合として誘導することができる.最近,データ同化(データアシミレーション)として注目されているParticle Filterもその発展版のひとつである.確定的と呼ばれている逆解析の方法も確率論の立場から解釈することができる.さらに,逆問題における中心的議論となる非適切性(ill-posed problem)への対処法,チホノフの正則化,特異値分解による方法(一般化逆行列)等の正則化法も確率論から統一的に解釈することができる.Particle Filterや非適切性については別途資料とするため,そちらを参照されたい.確率論に従って定式化を行う利点は,推定精度の評価や情報基準の利用,最適観測点の議論など,様々な発展性が期待できるところである.

多くの実問題は非線形問題であり,最適化法や粒子法などが必要となるが,ある種の津波インバージョンは線形問題となる.ここではその基本的な定式化を紹介する.

多くの逆問題は非線形最適化問題として定式化することができる.例えば微分方程式で記述される現象において,物性値を未知とする逆問題は,支配方程式を制約条件とする制約条件付き最適化問題として定式化できる.本稿ではまず,より一般的な非線形逆問題の定式化を示した(1章)後,こうした問題を数値的に解く主要な方法について概観する(2章).さらに後半では,未知量次元の大きい非線形逆問題への応用を考慮して,adjoint法による高速勾配計算法(3章)とその具体例(4章),準ニュートン法における記憶容量節約法を解説する(5章).

2. 関連する理論

最も基本的な非線形フィルタリングである拡張カルマンフィルター(Extended Kalman filter,EKF)について説明する.はじめに,カルマンフィルター(Kalman filter, KF)の基礎となる線形最小分散推定(linear minimum mean square estimate, LMMSE)の理論について概説し,カルマンフィルターを誘導した後,拡張カルマンフィルターを誘導する.(2014.4.22)

推定の対象とする物理量が観測結果に等しい結果を導くように物理量の値を更新する,言い換えれば,観測値と推定値の差を最小にすることが多くの逆解析において採用されている過程であり,逆問題は最適化問題の1 つとして位置づけることもできる.数理計画法をはじめとして,最小二乗法やベイズ法,カルマンフィルタなど最適化問題を解く多くの解析手法が存在する.生命プロセスと進化を研究する人工生命の分野では,生物学的現象をコンピュータ上で再現する技法を応用した最適化アルゴリズムが開発されており,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithms:以下,GA と記す)は人工生命の最も代表的な例である.本稿では,GA の概略について述べる.(2014.4.22)

粒子フィルタはアンサンブルカルマンフィルタと同様にアンサンブルベースの逐次ベイズフィルタの一種である。しかし、アンサンブルカルマンフィルタでは状態変数や観測データがガウス分布に従わない場合や、観測モデルが線形関数でない場合に、妥当な計算結果が得られないことがあるのに対し、粒子フィルタでは、そのような仮定を一切必要とせず、より一般的な状態空間モデルを対象にできるのが最大の特長である。また、アルゴリズムが単純なため、実装が容易であることも長所の一つとして挙げられる。(2014.4.27)

粒子フィルタには退化と呼ばれる固有の現象が存在し,高次元のシステムへの適用を妨げる大きな要因となっている.このため,粒子フィルタに関する近年の研究動向として,退化問題の克服に焦点が当てられており,従来の粒子フィルタを拡張した新しいアルゴリズムが提案されている.本稿ではMerging Particle Filter, Gaussian Mixture Filter, Implicit Particle Filterの3つの粒子フィルタを紹介する.(2015.3.3)

粒子フィルタのための例題として2質点系の振動問題を取り上げ,応用力学シンポジウムで各種手法の比較を発表した.まもなく論文集に登載される予定である.モデルについて例題について詳細に紹介した記事である.(2016.1.30)

粒子フィルタのための例題として透水係数の推定問題を取り上げた.上記の振動問題と逆問題的には同じ構造になるので興味深い例題になるということで考えたが適用例を作成するところまでは至っていない.誰か上記振動問題との比較などを検討してもらえるとよいのだが.(2016.1.30)